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生成文法と歴史研究

生成文法における文法研究は,母語話者に内在する言語能力の解明と幼児の言語獲得能力の解明を課題としてあげています.Chomskyの原理とパラメータ(Principles and Parameters)による理論的モデルでは言語の多様性は複数のパラメータの値の組み合わせとして規定されます. パラメータは二項対立であり,言語類型論における,連続体(continua),漸次変容(cline)は排除されます.たとえば,語順のパラメータにおいて,言語は英語のようなVO語順か日本語のようなOV語順かのどちらかであり,他の語順はすべて移動により派生される語順であり、自由語順の言語は存在しません.言語間の文法の相違が二項対立の一連のパラメータの値によって特徴づけられるということは子供の言語獲得の迅速性と一様性に重要な意味をもちます.
 Lightfoot (1991)以降,この言語間の共時的多様性を規定する分析的方法は同じ言語の通時的変化のメカニズムを解明するのに使われてきました.言語変化の説明に通時的規則や原理を想定するのではなく,文法変化をパラメータの再設定として捉えます.なぜなら人間は言語の歴史を考慮することなく言語を獲得するからです.文法は心的実在であり子供は周囲の大人が話す個別言語のデータをもとに完全な言語を獲得します.言語変化は,それぞれの世代で,子供が大人から受け取る言語的証拠を分析し,新しい文法を獲得する場合に生じます.母語話者に内在する言語能力である普遍文法(Universal Grammar)の観点から,現代語と古代語は同等であり,古代語の文法を学ぶ子供も現代語の文法を学ぶ子供も普遍文法の制約に従って言語を学びます.このことは,人間言語の通時的変化の説明は共時的体系の中に見られることを意味し,通時的規則,原理,一般化は共時的原理から結果として生じることを意味します.生成文法における歴史研究の理論的問題は,言語の文法がなぜ、どのように変化していくのかという点に焦点が置かれてきました.本研究では、日本語の歴史資料を用いて、生成文法、言語類型論の視点から、格システムの変化、語順の変化に関する実証研究を行っています。

科学研究費

2015-2018年予定 「言語類型論からみた日本語史の項表示の変遷:通時コーパスを利用した実証研究」
日本学術振興会/基盤研究(C) 4160000
2011-2015年 「日本語の格システムの類型的変化と統語コーパス構築に向けての基礎研究」
日本学術振興会/基盤研究(C) 4030000

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