祝詞について
祝詞は神に関することをつかさどる神祇官という役所または神宮や神社で祭や行事を取り行うときに、そこに集まっている人々に対してとなえられた言葉です。上代の祝詞の中で現存するものは醍醐天皇の延長五年(927)に選進した『延喜式』の第八巻に収められた27篇、同書十六巻にある「儺祭詞」、『台記』の別記に「中臣の寿詞」があります。延喜式祝詞の文体は漢文体の呪文一篇をのぞいて他はすべて国文体であり、自立語は表意文字の大字で書かれ、用言の活用語尾、助動詞、助詞はいずれも小字の、いわゆる宣命体で書かれています。また返読される漢文体で書かれた箇所も少しあります。延喜式成立時の原本は現在に伝わらず、祝詞の作成時代や作者については何も記録が残っていません。それでも、祝詞の内容、文体、用語などから成立年代を推測することが可能であり、かなり古いものから比較的新しいものまで、書かれた年代が異なるものの、上代の資料として当時の日本語を研究する上で重要な資料と言えます。延喜式祝詞がおさめらている最古のものは、九条家本(東京国立博物館蔵)であり、平安時代後期の写本です。祝詞は、江戸時代の国語学者により本格的な研究が行われ、賀茂真淵著『延喜式祝詞解』(1746)、その後これを改訂した『祝詞考』(1800)、また、賀茂真淵の門下の本居宣長の『大祓詞後釈』(1796)『出雲国造神寿後釈』(1793)などがあります。